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大分家庭裁判所 昭和41年(少)1544号 決定

少年 M・K(昭二七・六・二五生)

主文

少年を初等少年院に送致する。

押収してある紺色ポロシャツ一枚(昭和四一年押第二四〇号の二)を没取する。

理由

(非行事実)

少年は、

第一  昭和四一年二月○日午後二時ごろ、別府市○町○番○○号○川○七方において、窃盗の目的で物色したが、適当な目的物がなく、その目的を遂げることができず、もつて刑罰法令に触れる行為をなし、

第二  下表記載の日時、場所において、同表記載の各被害者所有にかかる各物件を、単独又は同表記載の各共犯者と共謀のうえ窃取し

番号

日時(頃)

場所

被害者

物件(時価位)

共犯者

昭和四一年九月

○○日午後九時

別府市○○×丁目○番○○号

○○旅館

○道○子

現金 三〇〇円

財布(一、〇〇〇円)

AB

同月△△日

午前一〇時

同市○町○番○号

○○医院看護婦室

○壁○子

外二名

現金 一、〇〇〇円

財布 (六〇〇円)

昭和四二年三月○○日

午前一一時

同市△△町○番○○号

○藤○子

○藤○子

現金 八〇〇円

同年四月○○日

午前一〇時

同市○○区○○組

○部○吉

○部○吉

印鑑外六点

(合計一、四七〇円)

同年五月○日

午後五時

同市○町△番○○号

○○眼科医院

○井佐○子

現金 四、四〇〇円

同月○○日

午前九時

同市○○○町○番○○号

旅館○○○荘

○代ヒ○子

現金 八、〇〇〇円

同月△△日

午後二時

同市××町○番○号

○○小児科看護婦室

○野○美

外四名

現金 六、一五〇円

財布等一〇点(二、二〇〇円)

第三  昭和四一年九月○○日午後九時すぎごろ、別府市○○○丁目△番○○号△△旅館の六畳居間において、窃盗の目的で物色中家人に発見され逃走したため、その目的をとげることができなかつたほか、別紙被疑事実一覧表(一)、(二)〈省略〉記載の日時場所において、同表記載の各被害者所有にかかる各物件を窃取し

たものである。

(適条)

第一の事実につき、少年法三条一項二号

第二、三の事実中、窃盗の所為については刑法二三五条、同未遂の所為については同法二三五条、二四三条

なお、前記第一の非行当時、少年は一四歳未満であつたが、検察官から事件が送致され、家庭裁判所がこれを受理した時は、すでに一四歳を超えていたものである。このような場合、家庭裁判所は少年法三条二項に基き都道府県知事等の事件送致がなくても審判できるかについて考えてみるのに、少年法三条一項二号および同条二項が一四歳未満という年齢限界を設けたのは、家庭裁判所に審判権の範囲を画する便宜のためだけでなく、刑法にいう責任能力の限界をも加味した法意であると、一般に解されているが、これは少年法の精神からいつて、必ずしも当然の帰結とはいえない。むしろ少年法三条二項所定の手続の履践を要求するのは、一四歳に満たない少年は人格の成熟がなお十分でなく、非行性が矯正されやすいところから、その場合には保護者の意見を尊重して、年少少年に対する保護にふさわしい児童福祉機関による措置を優先せしめたためだと考えられる。従つて、現に審判時一四歳に達している少年はかかる考慮を払われるべき必要性はなく、加えるに少年法所定の年齢による事件処理のうち、例えば同法一九条二項のように、その上限については原則として処理時における少年の年齢を基準としており、かつ一四歳未満の虞犯行為については、処理時一四歳に達しておれば、家庭裁判所の審判権が一般に肯定されている権衡からみても、本件少年のように審判時に一四歳を超えている場合には、都道府県知事等から事件の送致がなくても、家庭裁判所はその少年に対し審判権を有するものというべきである。

(処遇事由)

少年は、昭和四一年一一月一一日、大分家庭裁判所において前記二の番号1、2および別紙被疑事実一覧表(一)の各非行事実(窃盗)により試験観察決定を受け、大分県中津市の社会福祉法人聖ヨゼフ寮に補導委託されたが、昭和四二年二月下旬同寮を逃げ出し、父母の住居地である別府市に舞い戻つたが、逃走したことから両親に会うのが恐しく、駐車中の自動車や安宿で泊つているうち、生活費に窮したあげく、前記二の番号3乃至7および別紙被疑事実一覧表(二)の各非行を犯すに至つた。

少年は知的に普通であるが、情意蓄積、発散の両向的で不安定であり、適応意欲、向上意欲を失つていないが、その性格的偏倚から過度に緊張しすぎる結果、少年の経歴に見られるように委託先等の施設において長続きできなかつた。さらに、一度挫折すると主観的考えに把らわれて、視野狭窄をおこし易く、自棄的になつて次々に非行を繰り返す傾向があり、本件もその回数も多く、すでに少年には盗癖の固着化がうかがわれる。

また、少年は幼少期から、家族との関係の悪さや施設生活が長かつたこともあつて、人との感情的、愛情的結びつきに乏しかつたことも、少年の問題点として指摘されるし、本件についてもひどく自罰的であるが、はなはだ主観的でその反省が問題解決への原動力となつていない。ここに無理のないペースで、少年なりの生活リズムを持たせ、情意の安定をはかり、さらに義務教育の履修と将来への方向づけを決定させる必要があると考える。この意味において、少年の健全な育成をはかるため、この際少年を初等少年院に送致するのが相当である。

よつて、少年法二四条一項三号、少年審判規則三七条一項、少年法二四条の二により、主文のとおり決定する。

(裁判官 野口頼夫)

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